何でもできる主人公は、本来なら爽快感を生む存在です。ところが『斉木楠雄のΨ難』では、その「何でもできる」こと自体がほとんど災難として扱われます。
テレパシーで人の本音は聞こえる。念力も使える。危険が起きれば人知れず対処できる。それでも斉木楠雄が欲しいのは名声でも世界征服でもなく、目立たず静かに暮らせる普通の日常です。なのに燃堂力、海藤瞬、照橋心美をはじめ、放っておいても目立つ人間たちが次々と彼の周囲に集まってくる。
この「世界でも屈指の異常な能力を持つ少年が、世界でいちばん普通の生活を望んでいる」というズレが作品の核です。そこで今回は超能力ものという括りだけではなく、無表情な主人公と濃い脇役の温度差、異常事態への冷静なツッコミ、本人の意思に反して広がっていく人間関係まで分解して、次に読みたい5作品を選びました。
『斉木楠雄のΨ難』の魅力とは?
斉木楠雄は、物語開始時点ですでに驚くほど多くの超能力を使えます。つまり一般的な能力バトルのように、「もっと強くなりたい」という目標がほぼありません。むしろ強すぎるから困っている。力を使えば大抵の問題は解決できても、能力の存在が知られれば平穏な生活から遠ざかるため、どう問題を解決しながら自分は目立たないかが毎回の勝負になります。
この構造のおかげで、読者が楽しみにするのは「斉木は勝てるのか」ではありません。「今度はどうやって誰にも気づかれずに片付けるのか」です。圧倒的な強さを持ちながら、結果だけ見るとなぜか苦労人。ここが無双系主人公とはまるで違います。
さらに面白いのが、斉木自身がほぼ常にツッコミ側にいること。燃堂の予測不能な行動、海藤の中二病的な世界観、誰からも好かれることを自覚している照橋など、周囲の人物は一人ずつギャグのルールが違います。斉木は心の中で冷静に分析していますが、超能力を使っても彼らの個性までは消せません。
そして物語が進むほど、「一人でいたい」という斉木の願望と、「なぜか離れてくれない友人たち」の関係が効いてきます。口では面倒だと思い、実際かなり面倒な目にも遭う。それでも本当に困った場面では放っておけない。友情を大げさに語らず、拒絶と世話焼きの間から少しずつ情が見えてくるのが、この作品の優しいところです。
だから『斉木楠雄のΨ難』が好きな理由は、「超能力ギャグ」「最強主人公」だけではありません。普通を望む規格外の主人公、ボケに囲まれた常識人、妙に愛着の湧く変人たち、テンポの速い短編、そして笑っているうちにいつの間にか仲間を好きになっている感覚。そのどこをもっと読みたいかで、次の作品は変わります。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『モブサイコ100』
「すごい超能力を持っているのに、それを人生の価値だと思っていない主人公」という部分をもっと読みたいなら、最初の候補は『モブサイコ100』です。
主人公・影山茂夫、通称モブは強大な超能力を持つ中学生。しかし本人が欲しいのは超能力者としての称賛ではなく、ごく普通の青春です。好きな相手に振り向いてもらいたい、自分自身を変えたい。そのために超能力とは直接関係のない努力まで始めます。
斉木とモブはどちらも、普通なら主人公の最大の武器になる力を「自分そのもの」とは考えていません。この距離感がよく似ています。ただし斉木が能力を駆使して日常を元に戻すほど笑いが生まれるのに対し、モブの場合は「力以外の自分をどう成長させるか」が物語の中心へ入ってきます。
師匠の霊幻新隆をはじめ、モブの周囲にも癖の強い人物が多く、真顔のまま異常な状況が進む場面も多め。それでも物語が進むほど人間的な成長へ踏み込むため、『斉木楠雄のΨ難』でギャグの奥にある主人公の優しさが好きだった人に特に合います。全16巻完結。笑いながら読み始め、最後には一人の少年の青春を見届けた感覚が残る作品です。
2.『ヒナまつり』
『斉木楠雄のΨ難』の「超能力者がいるのに、なぜか能力以上に周囲の人間がおかしい」という部分が好きなら『ヒナまつり』です。
若手ヤクザの新田義史の部屋へ、ある日突然、超能力を使う少女ヒナが現れます。最初は完全に厄介事。しかし新田はなんだかんだでヒナの面倒を見ることになり、奇妙な共同生活が始まります。
ヒナの念動力は十分に規格外なのですが、この漫画では超能力だけが笑いの中心に居続けません。新田、ヒナ、アンズ、三嶋瞳など、それぞれが別方向へ予想外の行動を取り、気が付けば「一番普通だったはずの人物までおかしな場所に到達している」ことがあります。
斉木が周囲の変人を頭の中で冷静に処理していくのに対し、『ヒナまつり』では新田が実際に振り回されながらツッコミ役を担当するのが大きな違いです。また、ヒナと新田の関係が少しずつ家族のようなものへ変化していくため、笑いの中に生活の積み重ねがあります。
超能力による派手さより、能力者と普通の人間が同じ日常にいることで起きるズレが好きならかなり有力。全19巻完結で、後半ほど脇役まで妙に愛おしくなってくるタイプのコメディです。
3.『坂本ですが?』
超能力は必要ない。斉木の「どんなトラブルにもほとんど動じず、常識外れの方法で解決してしまう姿」が好きなら『坂本ですが?』が近いです。
県立学文高校に入学した坂本は、行動のすべてが異様なほどスタイリッシュ。嫌がらせを受けても真正面から怒るのではなく、なぜそんな方法を思いついたのかと言いたくなるやり方で切り抜け、結果的に周囲の人間まで巻き込んでしまいます。
斉木と坂本には、本人が慌てないからこそ周囲との温度差が笑いになるという共通点があります。普通ならピンチになる状況でも、読者は「どうせ何とかする」と知っている。興味は成功するかどうかではなく、「今回はどんな意味不明な正解を出すのか」に向かいます。
ただし、斉木が人目を避けたいのに目立ってしまう主人公なのに対して、坂本は存在そのものが目立ちます。ここは正反対。それでも、距離を取っていたはずの同級生までいつの間にか彼に影響されていくところには似た気持ちよさがあります。
全4巻完結と短めなので、テンポの良い学園ギャグを一気に読みたい人にも選びやすい一作。淡々とした主人公が騒がしい学校を支配してしまうタイプの笑いが好きなら、かなり相性がいいでしょう。
4.『SKET DANCE』
燃堂や海藤たちとの学校生活そのものが好きだった人には、『SKET DANCE』を推したいところです。
開盟学園の「スケット団」は、ボッスン、ヒメコ、スイッチの3人で構成された学園生活支援部。生徒から持ち込まれる悩みや依頼を解決しようとしますが、相談者まで含めて癖の強い人物ばかりなので、些細な依頼が妙な騒動へ変わっていきます。
斉木はトラブルを避けたいのに巻き込まれる側ですが、ボッスンたちは自分から首を突っ込む側。この違いがあるため、同じ学園コメディでも読後の手触りは少し違います。
それでも、毎回違う変人が現れ、真剣にくだらないことをやり、時にはその人物が後の話にも顔を出すことで学校全体が一つのコミュニティに見えてくる構造はかなり近いものがあります。くだらない回を積み重ねてきたからこそ、人物の過去や悩みを扱う回が急に効いてくるのも特徴です。
『斉木楠雄のΨ難』で超能力以上に「PK学園のメンバーと過ごす時間」が好きだった人向け。全32巻完結で、長く付き合える学園コメディを探しているなら候補に入れたい作品です。
5.『銀魂』
テンポの速いギャグだけでなく、普段ふざけている人物が時々見せる真剣さまで含めて『斉木楠雄のΨ難』が好きだったなら、『銀魂』があります。
宇宙人が来訪した江戸で、坂田銀時が志村新八、神楽とともに万事屋を営む物語。設定だけならSF時代劇ですが、実際には会話の暴走、パロディ、くだらない勝負、日常の揉め事まで何でも扱います。
『斉木楠雄のΨ難』との大きな接点は、キャラクターの役割が固定されすぎないこと。昨日までボケていた人物が今日はツッコミに回り、常識人に見えた人物が突然いちばんおかしなことを始める。長く読むほど「この人が出てきたらこうなる」という期待が育ち、それを裏切ることでまた笑いが生まれます。
一方で『銀魂』は、長編になると戦いや過去の因縁をかなり本格的に描きます。基本的に日常ギャグのリズムを崩さない『斉木楠雄のΨ難』より、感情の振れ幅は大きめです。
斉木が口では面倒がりながら結局友人を助けるところに惹かれたなら、銀時たちの「普段は絶対に言わないけれど、必要な場面では動く」関係にも入りやすいはず。全77巻完結と長い作品ですが、ギャグと人間関係の両方を長期間楽しみたい人には最もボリュームのある選択肢です。

まとめ
『斉木楠雄のΨ難』に似た漫画を選ぶなら、「超能力者が主人公か」だけで決めないほうが、自分に合う作品へたどり着きやすくなります。
普通の青春を望む最強クラスの超能力者なら『モブサイコ100』。超能力と日常のズレ、濃すぎる脇役なら『ヒナまつり』。冷静すぎる主人公が常識外れの方法で学園の騒動を処理する笑いなら『坂本ですが?』。変人だらけの学校そのものを好きになったなら『SKET DANCE』。ギャグの裏に仲間への情を隠している関係まで求めるなら『銀魂』が向いています。
斉木楠雄は、人と関わらなくても多くのことを一人で解決できる主人公です。それなのに物語がおもしろくなるのは、彼の能力ではどうにもならない人間が次々と近づいてくるから。静かに暮らしたい本人と、放っておいてくれない周囲。その距離が少しずつ縮まっていくところまで好きだったなら、今回の5作品にもそれぞれ違った形の「面倒だけれど離れがたい仲間」が待っています。


