『僕といっしょ』は、『行け!稲中卓球部』に続いて古谷実が描いた青春ギャグ漫画です。主人公は14歳の先坂すぐ夫と、9歳の弟・いく夫。母親を亡くした二人は、母の再婚相手である義父との生活に耐えられず、家を飛び出します。
頼れる大人も、まともなお金も、これからどう生きればいいのかという計画もありません。それでも兄のすぐ夫は弟を連れ、「東京へ行こう」と行き先も曖昧なまま歩き始めます。
東京で二人が出会うのが、イトキンこと伊藤茂をはじめとする同じように行き場をなくした少年たちです。ホームレス同然の生活を経験しながら、やがて高校生・吉田あや子の家へ転がり込み、奇妙な居候生活を始めます。
前作『行け!稲中卓球部』にも負けないくだらないギャグを連発しながら、その奥には孤独、貧困、家族、恋愛、「自分はこの先どう生きればいいのか」という少年たちの切実な感情があります。笑っていたはずなのに、突然胸が痛くなる。それが『僕といっしょ』の大きな魅力です。
『僕といっしょ』の魅力とは?
本作の特徴は、主人公たちが最初から「青春を楽しめる安全な場所」にいないことです。すぐ夫といく夫は母親を失い、家にも居場所がなくなりました。学校生活からも離れ、東京で今日をどう生きるかというところから物語が始まります。
ところが、そんなかなり重い状況を古谷実は徹底的にギャグへ変えていきます。すぐ夫たちは真剣に生きているのに、やることなすこと妙に情けない。思いつきで行動し、大失敗し、くだらないことで大騒ぎします。
特に強烈なのがイトキンです。親も家もなく、一人で生きてきた彼は、自由というより「誰にも期待していない」ような人物として登場します。しかしすぐ夫たちと出会い、一緒に暮らすことで少しずつ他人とのつながりを持つようになります。
第3巻では、イトキンが川辺でシンナーを吸っていた少女・村田マリコと出会います。かつて孤独だった自分と彼女を重ねたイトキンは、珍しく誰かを助けようと決意します。
しかし、誰かを救いたいという気持ちだけで人生がうまくいくわけではありません。一緒に暮らせば相手の弱さも面倒な部分も見えてくる。自分自身にも他人を支え続けるだけの強さがないことに気づかされます。
この「善意はあるけれど、そんなに立派な人間にはなれない」という描き方が非常に古谷実らしいところです。登場人物たちはヒーローではなく、すぐ逃げるし、面倒くさがるし、間違えます。それでも完全に他人を見捨てることもできません。
弟のいく夫が学校へ通うようになる一方、兄のすぐ夫やイトキンは社会のレールから外れたまま過ごします。同じ場所で一緒に暮らしていても、一人一人が少しずつ違う人生へ進んでいくところにも切なさがあります。
また、本作では「普通に暮らすこと」が意外なほど難しいものとして描かれています。家がある。学校へ行く。仕事をする。誰かと一緒にご飯を食べる。一般的には当たり前と思われるものが、主人公たちにとっては簡単に手に入らないからです。
それでも彼らは深刻な顔で人生論を語り続けるわけではありません。恋愛で浮かれ、馬鹿な遊びをし、しょうもないことで喧嘩しながら毎日を過ごします。その「人生は大変だけど、ずっと大変な顔をして生きる必要もない」という空気が、本作独特の優しさになっています。
『僕といっしょ』は『週刊ヤングマガジン』で1997年から1998年まで連載され、単行本全4巻で完結。後に講談社漫画文庫版も全3巻で刊行されています。講談社からも「ギャグの中に切なさと哀しさを織り込んだ」作品として紹介されている、古谷実の連載第2作です。
ここからは、『僕といっしょ』のように、冴えない若者たちの日常、社会から少し外れた人物、くだらない笑いの中にある孤独や切なさ、そして「人生って何なんだろう」と考えたくなる漫画を中心に5作品紹介します。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『グリーンヒル』
『僕といっしょ』の次に古谷実が連載した青春ギャグ漫画です。大学生の関口が、ふとしたきっかけからバイクチーム「グリーンヒル」の人々と関わるようになり、何となく毎日を過ごしていきます。
大きな目標に向かって努力するというより、「何かしなければ」と思いながらもなかなか動けない人々が中心です。それでも恋をしたり、仲間と遊んだり、突然やる気を出したりしながら人生は続いていきます。
『僕といっしょ』で、立派とは言えない登場人物たちがダラダラ生きながら、ときどき人生について真剣に考えるところが好きだった人には最もおすすめです。イトキンとつながりを感じられる要素があるのも、古谷実作品を続けて読む楽しみの一つです。

2.『行け!稲中卓球部』
古谷実の代表作となった学園ギャグ漫画です。稲豊中学校の卓球部に所属する前野、井沢、田中、田辺、竹田、木之下たちが、卓球そっちのけでくだらない騒動を繰り広げます。
下ネタ、不条理ギャグ、意味のない遊びなど、とにかく笑いの勢いが強烈です。しかし、モテないことへの焦りや劣等感、仲間との関係など、思春期男子の妙に生々しい感情もところどころに顔を出します。
『僕といっしょ』で、重い境遇を描いているのに容赦なくくだらないギャグへ走る古谷実の作風が好きだった人におすすめです。『僕といっしょ』よりも笑いへ大きく振り切った作品として楽しめます。

3.『ヒミズ』
古谷実による青春サスペンスです。中学生の住田祐一は、「普通の人生」を送りたいと願いながら暮らしています。しかし家庭環境や周囲の人間によって追い詰められ、その願いからどんどん遠ざかっていきます。
『僕といっしょ』までの古谷作品にあったギャグを大幅に抑え、孤独や暴力、社会からこぼれ落ちていく少年の心理を真正面から描いた作品です。
『僕といっしょ』で笑いよりも、家族に居場所を失った少年たちや「普通に生きたいのに普通に生きられない」という部分が心に残った人におすすめです。同じ古谷実でも、こちらではそのテーマをより暗く、鋭く掘り下げています。

4.『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
花沢健吾による青春ヒューマンドラマです。主人公・田西敏行は、仕事も恋愛も思い通りにならず、自分に自信を持てない冴えない会社員。恋をきっかけに人生を変えようとしますが、何をやっても格好よくはいきません。
失敗し、恥をかき、ときにはどうしようもない行動まで取りながら、それでも田西は自分なりに前へ進もうとします。
『僕といっしょ』で、格好悪い人間を決して美化せず、それでも「こいつらなりに一生懸命生きている」と思わせてくれるところが好きだった人におすすめです。笑えるのに痛く、情けないのに最後まで見届けたくなる主人公に共通する魅力があります。

5.『ソラニン』
浅野いにおによる青春漫画です。大学卒業後、社会人として働きながら「このままでいいのか」という違和感を抱える芽衣子と、音楽を続ける恋人・種田を中心に描かれます。
夢を追うのか、安定した生活を選ぶのか。何か特別な人間になりたいと思いながらも、自分にそれだけの才能や覚悟があるのか分からない。そんな若者たちの迷いが丁寧に描かれています。
『僕といっしょ』で、明確な答えを持たないまま「人生って何なんだろう」と考えながら生きる登場人物たちに惹かれた人におすすめです。ギャグの量は少ないものの、若者が自分の居場所や生き方を探す切なさには通じるものがあります。

まとめ
『僕といっしょ』は、古谷実による青春ギャグ漫画です。母親を亡くし家を飛び出した兄弟・すぐ夫といく夫が東京へ向かい、イトキンをはじめとする行き場のない少年たちと出会いながら、奇妙な居候生活を送ります。
古谷実らしいダメ人間の日常をもっと味わうなら『グリーンヒル』、徹底的に笑いたいなら『行け!稲中卓球部』がおすすめです。少年の孤独をさらに深く描く『ヒミズ』、情けない男の人生なら『ボーイズ・オン・ザ・ラン』、若者が生き方を探す切なさなら『ソラニン』も相性抜群です。
すぐ夫やイトキンたちは、人生の正解を知っているわけではありません。間違えて、逃げて、面倒くさがって、それでも誰かと出会いながら何とか次の日まで生きていきます。『僕といっしょ』の、くだらなく笑えるのに突然「生きるって何だろう」と胸へ刺さってくる古谷実独特の世界に惹かれた人なら、今回紹介した5作品にも忘れられないダメな人たちが待っています。

