『いぶり暮らし』は、大島千春による燻製をテーマにしたグルメ漫画です。東京の片隅で同棲している頼子と巡。頼子はカフェで働き、巡も仕事をしているため、二人の生活時間はなかなか合いません。
そんな二人にとって特別なのが、唯一そろって休める日曜日です。せっかくの休日を少し贅沢に過ごすために始めたのが、自宅で食材をじっくり燻す「燻製」でした。
肉や魚だけでなく、チーズ、卵、野菜、調味料まで、「これも燻製にできるの?」と思うような食材が次々と登場。煙の香りが染み込むのを待ちながら話し、出来上がった料理を二人で食べる。そんな何気ない休日が、とても幸せに見えてくる作品です。
『いぶり暮らし』の魅力とは?
本作最大の魅力は、燻製という「待つ料理」と頼子と巡の生活がぴったり重なっていることです。火にかければすぐ完成する料理とは違い、燻製にはじっくり煙をまとわせる時間が必要です。
その待ち時間に二人は、平日にあった出来事や最近気になっていることを話します。忙しい毎日の中では十分に話せなかったことも、燻製が完成するのを待っている時間なら自然と口にできる。料理そのものだけでなく、「一緒に待つ時間」が二人にとって大切なものになっています。
頼子と巡が、最初から何でも分かり合える完璧なカップルではないところも魅力です。同棲生活が長くなれば、仕事や将来について考えることも増えます。生活リズムや考え方の違いから、ちょっとしたすれ違いが生まれることもあります。
それでも日曜日になると二人で食材を買い、燻製器を準備し、出来上がった料理を食べる。その繰り返しの中で、相手が何を考えているのかを少しずつ知っていきます。
グルメ漫画としてもかなり実践的です。特別な設備がないとできない料理ばかりではなく、自宅でも挑戦できそうな燻製が多く登場します。読みながら「次の休日にこれを試してみたい」と思えるのも楽しいところです。
そして何より、料理が本当においしそうです。煙をまとった食材を切った瞬間の断面や、出来たてを頬張ったときの表情など、燻製ならではの香りまで伝わってきそうな描写があります。
また、本作は恋愛漫画でありながら、ドラマチックな恋の駆け引きを中心にはしていません。すでに一緒に暮らしている二人が、毎日の食事や休日の過ごし方を通して関係を育てていきます。
恋人同士だからといって、毎日特別なイベントが起きるわけではありません。一緒にスーパーへ行き、料理をして、食べて、片付ける。そんな普通の生活が積み重なって「二人の暮らし」になっていくところに温かさがあります。
『いぶり暮らし』は『月刊コミックゼノン』で連載され、コミックス全9巻で完結しています。2022年には志田未来主演、泉澤祐希共演でテレビドラマ化されました。ドラマでも、同棲3年目の頼子と巡が休日に燻製料理を楽しむ穏やかな生活が描かれています。
ここからは、『いぶり暮らし』のように、料理を作って一緒に食べる時間、カップルや夫婦の日常、家で過ごす小さな幸せをじっくり楽しめる漫画を中心に5作品紹介します。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『焼いてるふたり』
ハナツカシオリによる新婚グルメ漫画です。マッチングアプリで出会った福山健太と山口千尋は、健太の転勤をきっかけに交際0日で結婚。まだ互いのことをよく知らない状態から夫婦生活を始めます。
そんな二人の距離を縮めるのが、健太の大好きなBBQです。肉を焼き、キャンプ飯を作り、おいしいものを一緒に食べながら、少しずつ本当の夫婦になっていきます。
『いぶり暮らし』で、火を使った料理や休日に二人だけで食事を楽しむ時間が好きだった人には特におすすめです。燻製とBBQという違いはありますが、「料理をする時間そのものが二人の関係を育てる」という魅力は非常によく似ています。

2.『きのう何食べた?』
よしながふみによる料理と日常を描いた漫画です。弁護士の筧史朗と美容師の矢吹賢二という男性カップルを中心に、仕事、家族、人間関係、そして毎日の夕食が描かれます。
史朗は限られた食費の中で献立を考え、スーパーの特売品まで活用しながら料理を作ります。特別なごちそうではなく、普段の家庭料理が中心だからこそ「自分でも作ってみたい」と思えるメニューが豊富です。
『いぶり暮らし』で、料理が二人の生活や会話と自然につながっているところが好きだった人におすすめです。長く一緒に暮らしているからこその安心感や、食卓を囲む時間の大切さを味わえます。

3.『パンが焦げてもふたりなら』
たなによる夫婦の日常を描いたオールカラー漫画です。気づかい屋のはーさんと、楽天家のひーさんという性格の違う二人が、台所を中心に毎日の暮らしを重ねていきます。
料理が思い通りにいかなかったり、ちょっと失敗したりしても、二人ならそれも笑える出来事になる。完璧ではない日常をそのまま楽しむ空気が作品全体に流れています。
『いぶり暮らし』で、料理そのものよりも頼子と巡が一緒に過ごす穏やかな時間が好きだった人におすすめです。派手な出来事がなくても、「好きな人と暮らすっていいな」と思わせてくれます。

4.『作りたい女と食べたい女』
ゆざきさかおみによる料理と人間関係を描いた漫画です。料理を作ることが大好きな野本さんは、本当はもっと大量の料理を作ってみたいものの、一人では食べ切れないことに悩んでいました。
そこで出会ったのが、同じマンションに住む春日さん。豪快に食べる彼女へ野本さんが料理を振る舞うようになり、二人は何度も食卓を囲みながら徐々に特別な関係になっていきます。
『いぶり暮らし』で、「おいしいものを誰かと一緒に食べることで幸せが増える」という部分が好きだった人におすすめです。料理がそのまま二人のコミュニケーションになっていく過程が丁寧に描かれています。

5.『ワカコ酒』
新久千映によるグルメ漫画です。26歳の会社員・村崎ワカコが、仕事帰りなどに一人で店へ入り、料理とそれに合うお酒をじっくり楽しみます。
焼き魚、揚げ物、刺身、珍味など、身近な料理が数多く登場。料理と飲み物の相性がぴったり合った瞬間に飛び出す「ぷしゅー」という至福の表情が作品を象徴しています。
『いぶり暮らし』で、料理を急いで食べるのではなく、作る時間や香りまで含めてじっくり味わうところが好きだった人におすすめです。一人飯と同棲生活という違いはありますが、忙しい毎日の中に「おいしい時間」を作るという点ではよく似ています。

まとめ
『いぶり暮らし』は、大島千春による燻製グルメ漫画です。同棲中の頼子と巡が、唯一休みの重なる日曜日にさまざまな食材を燻し、出来上がるまでの時間を一緒に過ごします。
BBQと夫婦生活なら『焼いてるふたり』、毎日の食卓と長く続くパートナー関係なら『きのう何食べた?』がおすすめです。穏やかな夫婦の日常なら『パンが焦げてもふたりなら』、料理から始まる二人の関係なら『作りたい女と食べたい女』、一品一品をじっくり味わうグルメ漫画なら『ワカコ酒』も相性抜群です。
燻製は、食材をセットしたら完成するまで待たなければなりません。でもその「何もしない時間」にこそ、頼子と巡は話し、一緒に笑い、二人の生活を作っていきます。『いぶり暮らし』の「待ってる時間が、いちばんおいしい」と感じられる穏やかな食卓に惹かれた人なら、今回紹介した5作品にも毎日のご飯が少し楽しみになる物語が待っています。

