『首をまつる』は、『ここは今から倫理です。』などで知られる雨瀬シオリによる、「生首」をテーマにした異色のオムニバス漫画です。収録されているのは5つの物語。時代も場所も異なる人々と生首との関係を通して、死んだ人間と残された人間の想いを描いていきます。
合戦場で見つけた美しい青年の死体に心を奪われ、その首を持ち帰る女性の物語をはじめ、首狩りの文化を持つ人々など、「首」という強烈なモチーフからさまざまな人生が描かれます。しかし、単純に恐怖や残酷さを見せる作品ではありません。「肉体から切り離された首に、その人の魂や存在は残っているのか」という問いが、5つの物語を通して静かに浮かび上がってきます。
『首をまつる』の魅力とは?
最大の魅力は、「生首」という一見するとグロテスクな題材を、人間の愛情や喪失を描くためのモチーフとして使っているところです。首は恐ろしいものとして登場するだけではありません。ある人物にとっては愛する人の面影であり、別の人物にとっては文化や信仰と結びついた存在でもあります。
死んでしまった人間はもう戻ってこない。それでも、残された人はその人を思い続けます。写真や遺品、墓などに故人の存在を感じることがあるように、『首をまつる』では「生首」という極端な形を通して、亡くなった人とのつながりを求める人間の感情が描かれています。
また、5つのエピソードで時代や国境を越えていく構成も特徴です。同じ「首」を扱いながら、その意味は物語によって変化します。個人的な愛情として首を見つめる人もいれば、文化や社会の中で首と向き合う人もいる。一冊を読み終えるころには、最初に抱いていた「生首=恐怖」という印象そのものが揺さぶられます。
全1巻で完結するオムニバスという読みやすさも魅力です。一つひとつの物語はコンパクトでありながら、人間の生と死、愛情、記憶、文化といった大きなテーマが詰め込まれています。短い物語だからこそ説明しすぎず、読者自身に考えさせる余白が残されています。
ここからは、『首をまつる』のように、死や怪異といった少し不気味な題材を使いながら、人間の愛情や喪失、生と死の境界を描いた漫画を中心に5作品紹介します。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『兄だったモノ』
マツダミノルによる、大切な人の死と、その姿をまとった人ならざる存在をめぐる物語です。兄を亡くした女性と、兄の恋人だった男性。そして二人のそばには、死んだ兄を思わせる異形の存在が現れます。
恐ろしい存在が登場する作品でありながら、物語の中心にあるのは単純な怪物への恐怖ではありません。亡くなった人を愛していた人間は、その人の姿をした「何か」を前にしたとき、それを完全な別物として拒絶できるのか。愛情と喪失が怪異と絡み合っていきます。
『首をまつる』で、死者の肉体や姿に残された人間が想いを重ねるところに惹かれた人には特におすすめです。怖いのにどこか悲しく、愛情と嫌悪を簡単に切り分けられない独特の読後感があります。

2.『光が死んだ夏』
モクモクれんによる、死んだ親友と、その姿をした「ナニカ」との関係を描く青春ホラー漫画です。田舎で暮らす高校生・よしきは、幼なじみの光が以前の光とは違う存在になっていることに気づきます。
目の前にいる存在は、姿も声も記憶も光によく似ています。しかし、それでも本物の光ではない。よしきはその事実を理解しながらも、大切だった相手の姿をした存在を簡単に手放すことができません。
『首をまつる』で、「人間は肉体なのか、それとも魂なのか」という問いが印象に残った人におすすめです。亡くなった人の姿がそこに残っていたら、それだけでその人だと言えるのか。ホラーを通して、愛する人を失った人間の執着や孤独を描いています。

3.『令和のダラさん』
ともつか治臣による、現代に残る怪異と人間たちの日常を描いたホラーコメディです。恐ろしい姿を持つ怪異が登場する一方で、人間との奇妙な交流や、思わず笑ってしまう日常的なやり取りも描かれます。
怪異を単純な「退治すべき化け物」として扱わないのが特徴です。恐ろしい存在にも過去や感情があり、人間側にもそれぞれの事情があります。背景を知ることで、最初に感じた恐怖とは違う感情が生まれてきます。
『首をまつる』で、恐ろしい外見の向こう側にある人間の感情や歴史を読み取る面白さが好きな人におすすめです。よりコメディ色は強いものの、怪異と人間を単純な善悪で分けないところには共通した魅力があります。

4.『不安の種』
中山昌亮による、日常の中に潜む説明のできない恐怖を描いた短編ホラー漫画です。帰り道、家の中、学校、街角など、普段なら何も気にせず通り過ぎるような場所で、奇妙なものと遭遇する短いエピソードが次々と描かれます。
多くの話では、怪異の正体や理由が明確には説明されません。「あれは何だったのか」という疑問を残したまま物語が終わるため、読者の想像の中で恐怖が続いていきます。短いページ数で強烈な印象を残す構成も魅力です。
『首をまつる』のオムニバス形式や、一つのイメージからさまざまな感情を引き出す短編の面白さが好きな人におすすめです。人間ドラマより純粋なホラー寄りですが、説明されないものに想像を巡らせる楽しさがあります。
5.『死役所』
あずみきしによる、死者が死後に訪れる「シ役所」を舞台にした人間ドラマです。亡くなった人々はそこで、自分の死に応じた手続きを行います。そして一人ひとりがどのような人生を送り、なぜ死を迎えたのかが明らかになっていきます。
扱われる死はさまざまで、その背景には家族、恋愛、孤独、後悔など、生きていたころの人間関係があります。死者を描く作品でありながら、読み進めるほど強く浮かび上がってくるのは、残された人も含めた「生きている人間」の感情です。
『首をまつる』で、死そのものよりも「死んだ後に何が残るのか」という部分に惹かれた人におすすめです。一人の死を通して、その人が生きていた時間や周囲とのつながりを見つめ直すという点で相性のいい作品です。
まとめ
『首をまつる』は、雨瀬シオリが「生首」という強烈なモチーフを通して、死者と残された人々の関係を描いた全5編のオムニバス漫画です。怖さや異様さだけではなく、愛情、喪失、記憶、文化などさまざまな角度から「首」を見つめることで、生と死について考えさせられます。
死者の姿をした異形と愛情が絡み合う物語なら『兄だったモノ』、大切な人の姿をした別の存在との関係なら『光が死んだ夏』がおすすめです。怪異の向こう側にある感情なら『令和のダラさん』、短編で味わう説明不能の恐怖なら『不安の種』、死者と残された人々の人生を見つめるなら『死役所』も楽しめます。
肉体が死んだとき、その人の存在は本当にすべて消えてしまうのか。それとも残された人の記憶や想いの中に何かが残り続けるのか。『首をまつる』で、生首という異様な題材の奥にある人間の愛情や喪失に惹かれた人なら、ぜひ今回紹介した5作品も読んでみてください。

