『ニクバミホネギシミ』は、パレゴリックによるオカルトホラー漫画です。物語の中心となるのは、ノストラダムスの大予言をはじめ空前のオカルトブームに沸いていた1999年。三流オカルト雑誌の編集者・犬吠埼は、カメラマンであり強い霊感を持つ浅間を連れ、各地で起こる奇妙な事件を取材していました。
怪談や都市伝説を雑誌の記事にするための取材だったはずが、浅間の霊感に引き寄せられるかのように、二人は本物としか思えない怪奇現象へ次々と遭遇します。一度見つかってしまえば逃げられないもの、触れてはいけなかった場所、知るべきではなかった過去。取材を重ねるほど、二人は危険な「禁忌」へ近づいていきます。
一方、物語は1999年だけではありません。2023年、年老いた浅間のもとへ、かつての相棒・犬吠埼について調べる人物が現れます。「犬吠埼に何があったのか」という現在の謎と、1999年に二人が遭遇した怪異が少しずつつながっていく構成が、『ニクバミホネギシミ』の大きな特徴です。
『ニクバミホネギシミ』の魅力とは?
まず強烈なのが、1999年という時代設定です。ノストラダムスの大予言、心霊番組、オカルト雑誌、霊能力者など、「もしかしたら本当に世界が終わるのではないか」という空気が社会に漂っていた時代。その独特の熱気が、本作のホラーと抜群に噛み合っています。
犬吠埼が働くのも、怪しい事件や噂を扱う三流オカルト雑誌です。今のようにスマートフォンですぐ映像を撮影したり、検索だけで大量の情報を集めたりできない時代だからこそ、二人は直接現場へ向かい、人に話を聞き、古い資料を調べます。
その「取材する」という行為が、そのまま怪異へ近づくことになります。普通なら逃げるべき異変を見つけても、編集者とカメラマンである二人は仕事としてさらに奥へ踏み込んでしまう。その危うさによって、「そこはもう調べないほうがいい」と思いながらページをめくってしまいます。
浅間の霊感も重要です。彼には普通の人間には見えないものが見えるため、怪異に気づくことができます。しかし見えるということは、向こうからも認識される可能性があるということ。公式に掲げられた「見つかったら、終わり。」という言葉がぴったりの恐怖があります。
また、本作の怪異は単に突然現れて驚かせるだけではありません。死んだ人物から届く手紙、曰くつきの井戸、除霊師、霊能力タレントなど、事件ごとに異なるオカルト要素が登場し、その背後にある人間の過去まで掘り下げられていきます。
第3巻では、犬吠埼の先輩が怪異事件へ巻き込まれたことから、除霊師・火野が登場。火野は浅間の遠縁でもあり、浅間の暗い過去を知る人物です。怪異を追えば追うほど、事件だけでなく浅間自身についても新しい謎が浮かび上がります。
さらに第4巻では、死んだ友人から届いた手紙をきっかけに、曰くつきの井戸が残る町へ二人が向かいます。その一方、現代では犬吠埼の死について調べる総一郎が情報を求め、過去に関係する人々へ接触。1999年と現代という二つの時間軸が徐々に接近していきます。
第5巻ではついに1999年7月を迎え、「恐怖の大王が降りてきて世界は滅亡する」という予言で世間が騒然とする中、浅間と犬吠埼は霊能力タレント・東Eyeへの取材へ向かいます。読者は犬吠埼の未来を知っているだけに、1999年の時間が進むほど「何か取り返しのつかないことが起きるのではないか」という不安も強くなります。
『ニクバミホネギシミ』は新潮社の「くらげバンチ」で連載中。コミックス第1巻は2024年4月に発売され、2026年5月には第5巻が発売されています。一話ごとの怪談として怖いだけでなく、作品全体に大きな謎が流れているため、怪異の正体や人物同士のつながりを考察する楽しさもある作品です。
ここからは、『ニクバミホネギシミ』のように、日常のすぐ隣に潜む怪異、調べるほど危険になるオカルト、説明しきれない恐怖、そして複数の事件の裏側にある大きな謎を楽しめる漫画を中心に5作品紹介します。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『裏バイト:逃亡禁止』
田口翔太郎によるオカルトホラー漫画です。黒嶺ユメと白浜和美は、高額報酬と引き換えに危険な仕事を請け負う「裏バイト」へ次々と参加します。
仕事内容は警備、監視、旅館勤務など一見普通に見えますが、現場には必ずと言っていいほど説明不能な何かが潜んでいます。そして「このルールだけは守ってください」といった異様な条件の意味に気づいたときには、すでに逃げられないこともあります。
『ニクバミホネギシミ』で、怪異について知れば知るほど危険になる感覚が好きだった人には特におすすめです。すべてを説明しない怪異も多く、事件が終わったあとまで「あれは結局何だったんだ」と考えてしまう不気味さがあります。
2.『ダークギャザリング』
近藤憲一によるオカルトバトルホラーです。霊媒体質を持つ大学生・幻燈河螢多朗は、過去の心霊体験をきっかけに霊を避けて暮らしていました。しかし家庭教師のアルバイトを通して、強い霊感を持つ少女・寶月夜宵と出会います。
夜宵には、母親の霊を連れ去った存在を探すという目的があります。そのため危険な心霊スポットへ自ら踏み込み、凶悪な霊を捕獲しながらさらに強大な怪異へ挑んでいきます。
『ニクバミホネギシミ』で、霊感を持つ浅間が普通の人には見えないものを認識し、それゆえ怪異から逃れられなくなるところが好きだった人におすすめです。心霊スポットや都市伝説を調査するワクワク感と、本気で怖い怪異描写を同時に楽しめます。
3.『光が死んだ夏』
モクモクれんによる青春ホラーです。田舎の集落で暮らすよしきは、山で行方不明になった幼なじみ・光が戻ってきたあと、彼が以前の光とは違う「ナニカ」になっていることに気づきます。
姿も声も記憶も光そのもの。しかし決定的な部分だけが人間ではありません。よしきはその事実を知りながらも、幼なじみを完全に失うことに耐えられず、「ナニカ」との日常を続けます。
『ニクバミホネギシミ』で、土地や人間の過去と怪異が結びつき、現在起きている異変の原因を探っていく部分が好きだった人におすすめです。田舎の日常風景と理解不能なものが隣り合わせに存在する空気にも強い怖さがあります。

4.『見える子ちゃん』
泉朝樹によるホラーコメディです。女子高校生・四谷みこは、ある日突然、普通の人には見えない異形の存在が見えるようになってしまいます。
しかし、みこが選んだ対処法は「徹底的に見えていないふりをする」こと。電車、学校、自宅、街中など日常のあらゆる場所に恐ろしいものが存在していても、気づかれないよう平静を装い続けます。
『ニクバミホネギシミ』の「見つかったら、終わり。」という恐怖に惹かれた人には特に相性があります。こちらから怪異が見えていることを相手に悟られてはいけないという緊張感があり、「見ること」そのものが危険になるホラーを楽しめます。
5.『不安の種』
中山昌亮によるオムニバス形式のホラー漫画です。学校、道路、自宅、電車など、ごく普通の日常生活の中に突然現れる奇妙な存在や不可解な現象を、短いエピソードで描いています。
怪異の正体や原因について丁寧な説明が入るとは限りません。「なぜそこにいたのか」「あのあと何が起きたのか」すら分からないまま話が終わることもあり、その説明されなさが強烈な後味を残します。
『ニクバミホネギシミ』で、怪異には人間が理解できるルールなど存在しないのではないかと感じる怖さや、絵そのものから伝わってくる異様さが好きだった人におすすめです。短い話でも頭から離れなくなるタイプのホラーが詰まっています。
まとめ
『ニクバミホネギシミ』は、パレゴリックによるオカルトホラー漫画です。ノストラダムスの大予言で世間が沸いていた1999年、三流オカルト雑誌編集者・犬吠埼と霊感を持つカメラマン・浅間が怪奇事件を取材し、徐々に触れてはいけない禁忌へ近づいていきます。
説明不能な怪異と危険な仕事なら『裏バイト:逃亡禁止』、霊感を持つ人物による心霊調査なら『ダークギャザリング』がおすすめです。土地に根付いた怪異なら『光が死んだ夏』、「見えること」そのものの恐怖なら『見える子ちゃん』、正体すら分からない怪異の後味なら『不安の種』も相性抜群です。
怪異というものは、知らなければ無関係でいられたのかもしれません。しかし犬吠埼と浅間は仕事としてそれを探し、撮影し、記録しようとします。その結果、向こうからも二人が「見つかって」しまう。『ニクバミホネギシミ』の、怖いのにもっと真相を知りたくなるオカルトとミステリーの組み合わせに惹かれた人なら、今回紹介した5作品にも覗いてはいけない世界が待っています。

