『MUJINA INTO THE DEEP』は、『おやすみプンプン』『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』などで知られる浅野いにおによる近未来バトルアクション漫画です。『ビッグコミックスペリオール』で連載され、2026年5月発売の第6巻で「シーズン1」が完結。巻末にはシーズン2の冒頭も収録されています。
舞台となるのは、「人権」を失った者たちが存在する近未来社会。人権を持たない彼らは「ムジナ」と呼ばれ、社会から保障されない代わりに、通常の法律によって裁かれることもありません。そのため、ムジナの中にはその立場を利用して殺し屋として生きる者も存在します。
物語の中心となるのは、最強クラスの殺し屋として知られるムジナ・ウブメ。刀を背負い、都市のビルからビルへ飛び回りながら依頼を遂行していた彼女でしたが、新進気鋭の殺し屋テンコとの戦いで初めて敗北を経験します。信用を失ったウブメは、家出少女ジュノ、中年のゲーム会社社長テルミという「ムジナではない人間」と出会い、奇妙な共同生活を始めます。
『MUJINA INTO THE DEEP』の魅力とは?
最大の特徴は、「人権」という非常に現実的なテーマをバトル漫画のルールそのものに組み込んでいることです。ムジナには一般社会の人間と同じ権利がありません。社会から守ってもらえない一方で、社会の法律にも縛られない。その特殊な存在を通して、「人間が人間として扱われるために必要なものとは何か」という問いが浮かび上がります。
単純に「社会から追放された殺し屋が戦う漫画」ではありません。人権すら売買の対象になり得る世界を描くことで、社会の中で人間の価値がどのように決められているのか、誰が必要とされ、誰が切り捨てられるのかという問題へ踏み込んでいきます。
一方で、アクション漫画としての迫力も大きな魅力です。刀を背負ったムジナたちが高層ビルの屋上を飛び回り、立体的な都市空間を使って戦います。浅野いにおの緻密な背景描写と3DCGを駆使した画面づくりが組み合わされ、これまでの作品とはまた違ったスピード感のある戦闘が描かれています。
そして主人公・ウブメが最初から無敵ではないところも面白いポイントです。最強の殺し屋として評価されていた彼女がテンコに敗北したことで、それまで築いてきた信用や立場が崩れていく。強さそのものが仕事の価値につながる世界だからこそ、一度の敗北が人生を大きく変えてしまいます。
そこへジュノやテルミとの共同生活が加わることで、殺し屋同士の戦闘だけではない人間ドラマも生まれます。社会から外れたムジナと、社会の中で生きている人間。本来なら交わらないはずの者たちが一緒に暮らすことで、「普通の人生とは何か」「家族とは何か」というテーマにも物語が広がっていきます。
浅野いにお作品らしい社会への視線も健在です。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』では宇宙からやってきた「侵略者」を通して社会の分断を描きましたが、本作ではさらに直接的に「人権」という概念そのものを物語の中心へ置いています。
近未来SF、殺し屋アクション、社会風刺、そして奇妙な共同生活。それぞれまったく違う要素が一つの物語として混ざり合っているのが『MUJINA INTO THE DEEP』の面白さです。ここからは、そんな本作が好きな人におすすめしたい漫画を5作品紹介します。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『アンダーニンジャ』
花沢健吾による、現代日本に今なお忍者が存在しているという設定から始まるアクション漫画です。第二次世界大戦後に一度解体された忍者組織は密かに存続しており、現在も多数の忍者たちが社会の裏側で活動しています。
主人公の雲隠九郎は、仕事もなく暇を持て余していた末端忍者。そんな彼にある任務が与えられたことから、日常のすぐ裏側に存在していた巨大な組織同士の争いへ巻き込まれていきます。
『MUJINA INTO THE DEEP』で、現代社会とほとんど変わらない街の裏側に特殊な戦闘者たちの世界が存在する設定が好きだった人には特におすすめです。シュールな日常と突然始まる激しい戦闘の落差もよく似た魅力があります。

2.『ザ・ファブル』
南勝久による、裏社会で「ファブル」と呼ばれる伝説的な殺し屋を主人公にしたアクション漫画です。あまりにも多くの仕事をこなした主人公は、ボスから「一年間誰も殺してはいけない」という命令を受け、一般人・佐藤明として大阪で生活することになります。
殺しに関しては圧倒的な能力を持っている一方、普通の社会生活にはどこかズレている明。そのギャップからコメディが生まれますが、裏社会の人間たちが関わることで緊張感のある戦いへ発展していきます。
『MUJINA INTO THE DEEP』で、凄腕の殺し屋が戦闘から離れた場所で他人と暮らす姿や、「殺し屋としての自分」と「日常を生きる自分」が混ざり合っていくところが好きだった人におすすめです。

3.『ダーウィン事変』
うめざわしゅんによる、人間とチンパンジーの間に生まれた「ヒューマンジー」の少年・チャーリーを主人公にしたSFサスペンス漫画です。チャーリーが普通の高校へ通い始めたことで、その存在をめぐって社会にさまざまな議論や対立が生まれていきます。
人間とは何か。誰に権利を認めるのか。社会が「普通ではない存在」をどのように扱うのか。SF的な設定を使いながら、差別、思想、政治、テロ、動物の権利など現実社会にもつながる問題を描いています。
『MUJINA INTO THE DEEP』で、「人権を持つ者と持たない者」という設定や、アクションの背後にある社会的なテーマが面白いと感じた人には非常に相性のいい作品です。エンターテインメントを通して「人間とは何か」を問いかける点でも共通しています。

4.『亜人』
桜井画門による、死亡してもすぐに蘇生する新人類「亜人」をめぐるSFアクション漫画です。高校生・永井圭は交通事故で死亡した直後に蘇生し、自分が亜人だったことを知ります。
亜人は人間社会から恐れられ、政府による研究や管理の対象となっています。逃亡する圭の前には、同じ亜人でありながら人類への大規模な攻撃を始める佐藤が現れ、物語は壮絶な頭脳戦と戦闘へ発展していきます。
『MUJINA INTO THE DEEP』で、法律や社会制度の外側に置かれた存在と、それを管理しようとする社会との関係が気になった人におすすめです。特殊なルールを利用したスピード感のある戦闘も魅力で、SF設定とバトルの両方を楽しめます。

5.『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』
同じ浅野いにおによる、巨大な宇宙船「母艦」が東京上空に浮かぶ世界を描いたSF漫画です。異常事態が日常になった東京で、小山門出と中川凰蘭を中心とした少女たちは学校へ行き、友人と遊び、それぞれの青春を送っています。
しかし物語が進むにつれて、政府や軍事行動、「侵略者」をめぐる世論、社会の分断などが前面に現れます。誰を危険な存在と決めるのか、社会は誰を守り、誰を犠牲にするのかという問題が、巨大なSF設定の中で描かれていきます。
『MUJINA INTO THE DEEP』で浅野いにおが描く近未来社会や社会風刺に惹かれた人には外せない作品です。『デデデデ』からさらにバトルアクションへ踏み込んだ作品として『MUJINA INTO THE DEEP』を読むこともでき、両作品を比べると作者が描き続けている社会と個人のテーマも見えてきます。

まとめ
『MUJINA INTO THE DEEP』は、「人権」を失った者たちが「ムジナ」と呼ばれる近未来社会を舞台に、最強クラスの殺し屋・ウブメを中心とした戦いと人間ドラマを描く浅野いにおのバトルアクション漫画です。2026年5月発売の第6巻でシーズン1が完結し、物語は次の段階へ進もうとしています。
現代社会の裏側で戦う者たちを描く『アンダーニンジャ』、殺し屋と日常生活のギャップなら『ザ・ファブル』がおすすめです。権利や社会の境界をSFから問いかける『ダーウィン事変』、社会から異質な存在として扱われる者たちの激しい戦いなら『亜人』、浅野いにおによるSFと社会風刺をさらに読みたいなら『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』も相性のいい作品です。
人権を失ったら、その人は人間ではなくなるのか。法律に守られない代わりに法律からも自由になったとき、人はどのように生きるのか。『MUJINA INTO THE DEEP』は、そんな重い問いを圧倒的な都市描写とバトルアクションの中へ落とし込んだ作品です。近未来SFと殺し屋漫画の爽快感だけでは終わらない物語に惹かれた人なら、今回紹介した5作品もぜひ読んでみてください。

