『次の整理』は、光用千春による、夢を叶えられなかった女性と夢を叶えたかつての同級生との再会から始まるヒューマンドラマです。主人公の黒川は、小説家になることを夢見ながらも思うように結果を出せず、清掃員として働いています。そんな彼女が仕事で訪れたのは、売れっ子小説家となった高校時代の同級生・天野の家でした。
高校時代、黒川と天野が隣の席になったのはわずかな時間。それでも黒川は天野を覚えていました。しかし、10年ぶりに再会した天野は黒川のことを覚えていません。夢を叶えられなかった黒川と、黒川がなりたかった存在になった天野。あまりにも対照的な二人が再び出会い、「物語」をめぐる本気の「整理」を始めていきます。
『次の整理』の魅力とは?
本作の大きな魅力は、「夢を叶えた人」と「夢を叶えられない人」を同じ場所に立たせる設定です。好きなことを続けていればいつか夢は叶う、努力は報われる――そんな単純な成功物語ではありません。10年間小説家を目指してきた黒川の目の前に、自分が欲しかったものをすでに手に入れた天野が現れます。
だからこそ、黒川が天野に抱く感情も単純な憧れや嫉妬だけでは片づけられません。「なぜ自分ではなく、この人なのか」「自分には何が足りなかったのか」。他人の成功を目の前にしたことで、黒川はこれまで避けてきた自分自身の創作や人生とも向き合うことになります。
そしてタイトルにもなっている「整理」が面白いポイントです。黒川は清掃の仕事をしていますが、二人が整理していくのは物だけではありません。天野との対話を重ねながら、記憶や感情、過去の人間関係、そして「物語を作るとはどういうことなのか」という問題まで少しずつ掘り起こされていきます。
登場人物同士が簡単には理解し合えないところも本作らしい魅力です。善意で発した言葉が相手を傷つけたり、自分では相手を理解したつもりでもまったく違っていたりする。それでも他者と関わり、言葉を交わすことで、それまで自分一人では見えなかったものが現れてきます。
ここからは、『次の整理』のように、夢と現実の間でもがく人や、創作への執着、他人との出会いによって人生を見つめ直していく姿を描いた漫画を中心に5作品紹介します。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『ブルーピリオド』
山口つばさによる、美術の世界に魅了された高校生・矢口八虎が東京藝術大学を目指す青春漫画です。それまで要領よく生きてきた八虎は、一枚の絵との出会いをきっかけに、自分が本当にやりたいこととして絵を描き始めます。
しかし、美術の世界には幼いころから絵を描いてきた人間や、圧倒的な才能を持つ人間がいます。努力すれば必ず勝てるわけではなく、好きだからこそ他人との実力差に傷つく。その苦しさまで正面から描いている作品です。
『次の整理』で、創作を続ける人間の嫉妬や焦り、「自分には才能があるのか」という不安に惹かれた人には特におすすめです。他人の作品と向き合うことが、そのまま自分自身と向き合うことになっていく点にも共通する面白さがあります。

2.『かくかくしかじか』
東村アキコによる、漫画家を目指していた作者自身の青春時代と、恩師・日高先生との日々を描いた自伝的漫画です。絵が得意で漫画家になることを夢見る明子は、美大受験のために厳しい絵画教室へ通い始めます。
若いころには、自分なら何者かになれるという根拠のない自信があります。しかし実際に夢を追い始めれば、努力できない自分や、思い通りにならない現実とも向き合わなければなりません。本作では、夢を叶えるまでの格好悪さや後悔まで包み隠さず描かれています。
『次の整理』で「創作者になること」と「創作者になりたいと思い続けること」の違いが気になった人におすすめです。夢を追う時間と、その途中で出会った人々が後になってどんな意味を持つのかを考えさせられます。

3.『海が走るエンドロール』
たらちねジョンによる、夫を亡くした65歳の茅野うみ子が、映画制作という新しい世界へ踏み出していく物語です。映画館で映像専攻の美大生・濱内海と出会ったことから、うみ子は自分が映画を見るだけではなく、「撮りたい」と思っていたことに気づきます。
創作を始めるのに遅すぎる年齢はあるのか。才能があるかどうかも分からないのに、今から挑戦する意味はあるのか。うみ子が抱く戸惑いを通して、何かを作りたいという気持ちそのものが丁寧に描かれます。
『次の整理』の黒川が「自分もまた物語る存在になれるのか」と悩む姿に惹かれた人におすすめです。成功だけを創作の価値にせず、「それでも作りたいと思ってしまうのはなぜなのか」を見つめる作品として相性があります。

4.『映像研には手を出すな!』
大童澄瞳による、女子高校生たちがアニメーション制作に挑む漫画です。頭の中に膨大な世界を持つ浅草みどり、人物を動かすことに情熱を注ぐ水崎ツバメ、現実的な交渉や金銭面を担当する金森さやか。それぞれまったく異なる三人が集まり、自分たちの作品を作っていきます。
本作の面白さは、頭の中にある理想を実際の作品へ変える難しさまで描かれるところです。時間も予算も技術も有限で、作りたいものをすべて作れるわけではありません。それでも何を残し、何を削るのかを考えながら作品を完成へ近づけていきます。
『次の整理』で「物語を作る」という行為そのものに興味を持った人におすすめです。作家の内面を掘り下げる『次の整理』とは方向性が異なりますが、創作が単なるひらめきではなく、選択と試行錯誤の連続であることを楽しめます。
5.『ソラニン』
浅野いにおによる、大学を卒業して社会へ出た若者たちの夢と現実を描いた青春漫画です。会社員として働く芽衣子と、音楽への思いを捨てきれない種田。学生時代が終わっても、自分たちがこれからどこへ向かえばいいのか分からないまま日々を過ごしています。
夢を追い続ければ幸せになれるのか、それとも現実的な生活を選ぶべきなのか。本作はそのどちらかを簡単な正解として提示しません。夢を諦めることにも、追い続けることにも痛みがあり、その間で揺れる若者たちの感情が生々しく描かれます。
『次の整理』で、夢が叶わないまま時間だけが過ぎていく黒川の焦りや、「何者かになりたかった」という感情に共感した人におすすめです。夢と生活の間にある割り切れなさを描いたヒューマンドラマとして、深く刺さる部分があるでしょう。

まとめ
『次の整理』は、光用千春による、夢を叶えられなかった清掃員・黒川と、売れっ子小説家になった高校時代の同級生・天野との再会から始まるヒューマンドラマです。10年という時間を挟んでまったく違う場所に立った二人が、対話という「整理」を繰り返しながら、創作や記憶、他者、そして自分自身と向き合っていきます。
才能と努力の間でもがく創作者を描いた作品なら『ブルーピリオド』、夢を追った時間と恩師との関係なら『かくかくしかじか』、何歳からでも始まる創作なら『海が走るエンドロール』がおすすめです。作品を作る過程そのものを楽しみたいなら『映像研には手を出すな!』、叶わないかもしれない夢と現実の間で揺れる人々なら『ソラニン』も相性のいい作品です。
夢を叶えた人を目の前にしたとき、自分が叶えられなかった人生をどう受け止めるのか。そして、それでもまだ物語を作りたいと思えるのか。『次の整理』で、黒川と天野の少し痛くて簡単にはほどけない関係や、創作をめぐる葛藤に惹かれた人なら、今回紹介した5作品もぜひ読んでみてください。

