『勇者たち』が好きな人におすすめの漫画5選【ファンタジー・風刺・人間ドラマ】

ヒューマンドラマ

『勇者たち』は、浅野いにおによる全1巻完結のファンタジー漫画です。『マンガワン』で短期集中連載され、全ページカラーで描かれた本作は、いわゆる「勇者が暗黒の存在を倒して世界を救う」という王道ファンタジーの、その先から物語が始まります。

世界を闇へ導く「暗黒」に立ち向かうのは、種族も姿形もまったく異なる勇者たち。彼らは力を合わせて暗黒を倒します。本来ならそこで「めでたし、めでたし」となるはずですが、『勇者たち』では平和になった直後から仲間同士の意見がぶつかり始めます。

怒り、悲しみ、嫉妬、恨み、差別、すれ違い。さっきまで同じ敵と戦っていた仲間たちは、共通の敵を失った途端に互いの違いを意識し始めます。そして孤立した者が新たな「暗黒」となり、残された勇者たちは再び力を合わせてそれを倒す。しかし戦いが終われば、また別の対立が生まれる。そんな奇妙な繰り返しによって物語は進んでいきます。

『勇者たち』の魅力とは?

本作の大きな魅力は、ファンタジーの定番である「勇者対悪」という構図そのものをひっくり返しているところです。物語の最初には分かりやすい敵が存在します。しかし、その敵を倒したからといって勇者たちが幸せに暮らせるわけではありません。

むしろ共通の敵がいなくなったことで、それまで隠れていた仲間同士の違いが表面化します。誰を仲間として受け入れるのか。どの意見が正しいのか。誰が我慢すべきなのか。議論が進むほど誰かが孤立し、やがて新しい敵が生まれてしまいます。

「敵を倒す→これからについて話し合う→対立する→新しい暗黒が生まれる」という構造が繰り返されるのも特徴です。同じような出来事を反復しながら勇者の数が少しずつ減っていくことで、最初はコミカルにも見えた展開が徐々に不穏なものへ変化していきます。

そこには、人間社会そのものへの風刺も感じられます。自分たちは正しい側にいると思っていた人間が、いつの間にか誰かを排除する側へ回っている。反対に悪者として扱われた者にも、その人なりの怒りや悲しみがあります。「正義」と「悪」が固定されたものではないことを、奇妙な勇者たちの冒険を通して見せていきます。

さらに、登場する勇者たちの個性的なデザインと、全ページカラーによるビジュアルも大きな特徴です。一見すると絵本や昔のRPGのような楽しげな冒険世界なのに、そこで繰り広げられるのは嫉妬や炎上、仲間外れといった妙に現代的で生々しい争い。そのギャップが作品独特のブラックユーモアにつながっています。

全1巻という短さながら、読み終わると「そもそも敵とは何なのか」「自分は本当に正しい側なのか」と考えさせられる作品です。王道ファンタジーを楽しむというより、その形式を利用して人間や社会のおかしさを描いた異色作といえるでしょう。

ここからは、『勇者たち』のように、ファンタジーの定番をひっくり返す物語や、魔王と勇者の関係、正義と悪の曖昧さ、集団の中で生まれる争いを描いた漫画を中心に5作品紹介します。

おすすめの作品を詳しく紹介

1.『Helck』

七尾ナナキによるファンタジー漫画です。魔王が勇者によって倒された世界で、新たな魔王を決める大会が開催されます。ところが、その大会に参加したのは人間の勇者・ヘルク。しかも彼は圧倒的な強さを持ちながら、「人間を滅ぼそう」と笑顔で宣言します。

序盤はギャグ色の強い作品ですが、物語が進むにつれて人間と魔族の関係や、ヘルクが人間を憎むようになった理由が明らかになり、壮大なファンタジーへ変化していきます。人間が正義で魔族が悪という単純な構図ではありません。

『勇者たち』で、勇者や魔王という定番の役割を利用しながら「本当に悪いのは誰なのか」を問いかけるところが好きだった人におすすめです。コミカルな見た目から予想できないほど重いテーマへ踏み込んでいくところにも共通する魅力があります。

2.『葬送のフリーレン』

山田鐘人原作、アベツカサ作画によるファンタジー漫画です。勇者ヒンメル一行が魔王を倒し、世界に平和を取り戻した「その後」から物語が始まります。主人公は勇者一行の魔法使いだったエルフ・フリーレンです。

魔王討伐という巨大な冒険は物語開始時点ですでに終わっています。長命なフリーレンにとって10年間の冒険は短い時間でしたが、仲間だった人間たちは歳を取り、やがて亡くなっていきます。彼女はかつての旅を振り返りながら、人間を知るための新たな旅へ出ます。

雰囲気は大きく異なりますが、「魔王を倒したら物語は終わり」というファンタジーのお約束から外れ、その後の世界を描く点で『勇者たち』と相性のいい作品です。同じ「冒険の後」を、まったく違った方向から描いた作品として読み比べても面白いでしょう。

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3.『ダンジョン飯』

九井諒子による、巨大なダンジョンを探索する冒険者たちを描いたファンタジー漫画です。妹をドラゴンに食べられてしまったライオスは、仲間たちとダンジョンへ戻りますが、資金も食料も足りません。そこで彼らはダンジョンに生息する魔物を調理して食べながら冒険することになります。

一見すると「モンスターを食べる」というアイデアを楽しむコメディですが、物語が進むにつれてダンジョンの生態系、種族間の価値観、寿命の違い、欲望などが複雑に絡み合っていきます。誰かにとって当然の価値観が、別の種族にはまったく通用しないところも丁寧に描かれます。

『勇者たち』で、さまざまな姿や価値観を持つ者たちが同じパーティーに集まる面白さや、ファンタジー世界を使って現実の人間関係を描くところが好きだった人におすすめです。王道の冒険を少しずらした視点から見せる作品としても楽しめます。

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4.『魔王城でおやすみ』

熊之股鍵次による、魔王にさらわれた人間の姫・スヤリスを主人公にしたファンタジーコメディです。勇者が姫を救うため冒険している一方、当の姫が考えているのは「どうすれば魔王城で快適に眠れるのか」ということばかりです。

魔王や魔物たちは恐ろしい敵として登場するはずなのに、姫に振り回されて困り果てる側になります。人間と魔族という敵対関係がありながら、一緒に生活するうちにそれぞれの性格や事情が見えてきて、単純な善悪では分けられなくなっていきます。

『勇者たち』で、RPG的な勇者・魔王・冒険という設定をあえてズラして描くユーモアが好きだった人におすすめです。シリアスさはかなり控えめですが、「ファンタジーのお約束を疑ってみる」という楽しさを存分に味わえます。

5.『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』

同じ浅野いにおによる、巨大な宇宙船「母艦」が東京上空に浮かぶ世界で、小山門出と中川凰蘭を中心とした若者たちの日常を描くSF漫画です。

人類側は宇宙からやってきた存在を「侵略者」と呼びます。しかし物語が進むにつれて、人間側が常に正義で、侵略者側が一方的な悪だという構図は崩れていきます。政府やメディア、市民、それぞれの立場によって同じ出来事の見え方も変わります。

ジャンルはSFですが、『勇者たち』で描かれる「自分たちは正義だと思っている集団の危うさ」や、分かりやすい敵を作ることでまとまる社会への皮肉が好きだった人には特におすすめです。浅野いにおが異なるジャンルを使って描く、正義と敵の曖昧さを比較して楽しめます。

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まとめ

『勇者たち』は、世界を闇へ導く「暗黒」を倒した勇者たちが、その直後から仲間同士で対立し、やがて新たな暗黒を生み出してしまう浅野いにおの全1巻完結作品です。『マンガワン』で短期集中連載され、全ページカラーで描かれた異色のファンタジーです。

勇者と魔族の立場をひっくり返した物語なら『Helck』、魔王討伐後の世界を描く作品なら『葬送のフリーレン』がおすすめです。異種族の価値観を丁寧に描く『ダンジョン飯』、ファンタジーのお約束をコメディに変える『魔王城でおやすみ』、浅野いにお作品でもっと社会や正義への風刺を読みたいなら『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』も相性のいい作品です。

強大な敵がいる間は、違う考えを持つ者たちでも「勇者」として一つになれる。しかし敵がいなくなった瞬間、今度は隣にいる誰かが敵になる。『勇者たち』で描かれる奇妙な冒険は、ファンタジーでありながら、現実の社会や人間関係にも重なるところがあります。そんなブラックユーモアと風刺に惹かれた人なら、今回紹介した5作品もぜひ読んでみてください。

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