『セトウツミ』は、此元和津也による青春会話コメディです。物語の中心となるのは、関西に暮らす高校生・瀬戸と内海。放課後になると二人は河原へ座り、特に何をするでもなく暇をつぶします。
元サッカー部で明るく少し抜けている瀬戸と、クールで頭の回転が速い内海。性格のまったく違う二人が話す内容は、学校のこと、友達のこと、恋愛、言葉遊び、どうでもいい疑問など、本当にくだらないものばかりです。
しかし、ただ高校生二人がしゃべっているだけなのに妙に面白い。ボケとツッコミのようでいて単純な漫才でもなく、ときには笑っていた会話から登場人物の孤独や悩みまで見えてきます。「何も起こらない放課後」をここまで面白くできるのかと驚かされる作品です。
『セトウツミ』の魅力とは?
『セトウツミ』最大の特徴は、物語のほとんどが「会話」で成立していることです。巨大な事件が起きるわけでも、全国大会を目指すわけでもありません。瀬戸と内海が河原へ座ってしゃべる。それだけで一つのエピソードになります。
面白いのは、二人の会話が非常にテンポよく転がっていくところです。瀬戸が何気なく口にした一言を内海が拾い、屁理屈を返したと思えば、そこからさらに別の話へ飛んでいく。読んでいる感覚は漫画というより、完成度の高い掛け合いを間近で聞いているようです。
瀬戸と内海の性格の違いも絶妙です。瀬戸は感情が表に出やすく、思ったことをすぐ口にします。一方の内海は冷静で、瀬戸の発言へ淡々とツッコミを入れるタイプ。この二人だからこそ、何でもない話題がどんどん面白くなります。
さらに関西弁も作品のテンポを大きく支えています。標準語へ置き換えると少し違って聞こえそうな言い回しや間があり、瀬戸と内海の距離感まで会話から伝わってきます。
ただし、『セトウツミ』は単なる一話完結のギャグ漫画ではありません。序盤ではどうでもいい雑談に見えた言葉や人物が、後になって別の意味を持っていたことに気づかされます。
特に内海については、物語が進むほど「なぜこの少年は毎日のように河原へ来て、瀬戸と時間を過ごしているのか」が気になってきます。クールで何でも分かっているように見える彼にも、家庭や自分自身を巡る事情があります。
だから読み返したときの印象が変わるのも本作の大きな魅力です。最初は笑って読み飛ばしていた一言が、結末を知ったあとでは少し切なく聞こえることがあります。
そして、派手な青春ではないからこそリアルです。高校時代の記憶というと文化祭や部活の大会のような大きな出来事を思い浮かべますが、実際には友達と帰り道でしゃべったことや、何となく同じ場所へ集まった時間のほうが妙に残っていたりします。
河原で交わされる瀬戸と内海の無駄話も、本人たちにとってはただの暇つぶしです。それでも読者から見ると、その何でもない時間こそ二人の青春だったことが分かります。
原作漫画は『別冊少年チャンピオン』で2013年から2017年まで連載され、コミックス全8巻で完結。最終巻では、それまで積み重ねられてきた会話や伏線がつながり、“喋るだけ”だった物語だからこその余韻を残します。
2016年には池松壮亮と菅田将暉主演で実写映画化され、2017年には高杉真宙と葉山奨之主演でテレビドラマ化されました。会話そのものが魅力の作品だからこそ、実写との相性も非常にいい作品です。
ここからは、『セトウツミ』のように、何気ない会話が面白い作品、クセのある友人との青春、静かな日常の中に笑いや人間ドラマがある漫画を中心に5作品紹介します。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『男子高校生の日常』
山内泰延による学園ギャグ漫画です。タダクニ、ヒデノリ、ヨシタケを中心に、男子高校生たちのくだらない毎日を描いています。
放課後に友達と集まり、何の役にも立たない話をしたり、思いつきだけで妙な遊びを始めたり、女子との接し方を真剣に考えたり。本人たちは大真面目なのに、外から見るとどうしようもなくくだらないことばかりです。
『セトウツミ』で、瀬戸と内海が「何もすることがないからとりあえずしゃべる」という時間そのものが好きだった人には特におすすめです。高校生男子の無駄な時間が、一番楽しい時間に見えてきます。
2.『女の園の星』
和山やまによる学校コメディです。女子校で国語教師をしている星先生と同僚の小林先生、生徒たちの日常を中心に描かれます。
生徒が作る妙な絵しりとり、教師同士の雑談、学校で起きる小さな出来事など、どのエピソードも派手な事件とは無縁。それなのに人物の言葉選びや絶妙な間によって、じわじわと笑いが込み上げてきます。
『セトウツミ』で、勢いのあるギャグよりも会話の間や微妙な言葉のズレから生まれる笑いが好きだった人におすすめです。何でもない人同士のやり取りをずっと眺めていたくなる魅力があります。

3.『夢中さ、きみに。』
和山やまによる青春オムニバス漫画です。少し変わった男子高校生たちを中心に、学校で起こる何気ない出来事や人間関係を描いています。
劇的な青春イベントよりも、「なぜか気になる同級生」「妙に距離感がおかしい友達」といった人物同士の関係が中心。短いやり取りの中から、その人らしさが浮かび上がってきます。
『セトウツミ』で、瀬戸と内海という二人のキャラクターが会話だけでどんどん好きになっていく感覚が良かった人におすすめです。普通の高校生活の中にある、ちょっと変で忘れられない人間関係を楽しめます。

4.『カラオケ行こ!』
和山やまによるコメディ漫画です。合唱部部長の中学生・岡聡実が、ヤクザの成田狂児から突然「カラオケ行こ!」と誘われ、歌の指導をすることになります。
中学生とヤクザという本来なら接点がない二人ですが、カラオケを通して会う回数が増え、独特の関係が生まれていきます。大げさな感動を押しつけることなく、何気ない会話によって二人の距離が変化していくのが魅力です。
『セトウツミ』で、性格も立場も違う二人の掛け合いや、言葉にしすぎない友情が好きだった人におすすめです。笑える会話の奥に、少しだけ切ない人間関係が見えてくるところにも通じるものがあります。

5.『ひらやすみ』
真造圭伍による日常系ヒューマンドラマです。29歳の生田ヒロトは、譲り受けた平屋でのんびり暮らしています。そこへ美大進学のため上京してきたいとこの小林なつみが同居することになります。
二人でご飯を食べたり、近所を歩いたり、友人と話したり。大事件はほとんど起きませんが、何気ない会話の中からそれぞれの悩みや優しさが見えてきます。
『セトウツミ』で、「何も起きない時間にもちゃんと物語がある」と感じた人におすすめです。瀬戸と内海が過ごす河原と同じように、『ひらやすみ』の平屋も人が集まり、話し、少しだけ心を軽くして帰っていく居場所になっています。

まとめ
『セトウツミ』は、此元和津也による青春会話コメディです。関西の男子高校生・瀬戸と内海が、放課後の河原で暇をつぶしながら、くだらない話から恋愛や人生まで延々としゃべります。
男子高校生の無駄話をもっと楽しみたいなら『男子高校生の日常』、会話の間から生まれる笑いなら『女の園の星』がおすすめです。少し変わった高校生同士の関係なら『夢中さ、きみに。』、二人の掛け合いと不思議な友情なら『カラオケ行こ!』、何でもない日常そのものを味わいたいなら『ひらやすみ』も相性抜群です。
何か特別なことをしたわけでもないのに、後から思い返すとやけに大切だった時間があります。瀬戸と内海にとって、河原で過ごした放課後はきっとそんな時間だったのでしょう。『セトウツミ』の、ただしゃべっているだけなのに笑えて、読み終わるころには少し寂しくなる青春にハマった人なら、今回紹介した5作品にも何度でも会いたくなる人たちが待っています。

