『まなざし珠子の自由研究』は、『医龍』『幽麗塔』『夏目アラタの結婚』などで知られる乃木坂太郎による青春ジュブナイルホラー漫画です。『ビッグコミックスペリオール』で連載され、2026年5月にコミックス第1巻が発売されました。
主人公は、棒高跳びの有名選手でもある高校2年生の川嶋珠子。そして彼女の幼馴染みで、オカルトを一切信じていない少年・高浜みなと。家が隣同士の二人は、インターハイや受験を控えながら、ごく普通の高校生活を送っていました。
しかし、ある雨の日に起きた事件によって二人の日常は大きく変わります。そして夏休み、毎年学校から課される「自由研究」で二人が選んだテーマは、あまりにも異様なものでした。それは――「亡くなった先生を生き返らせる」こと。死者を取り戻そうとする高校生たちの研究は、やがて彼らが想像していなかった領域へと踏み込んでいきます。
『まなざし珠子の自由研究』の魅力とは?
本作の大きな魅力は、「夏休みの自由研究」という誰もが知る身近な題材と、「死者を生き返らせる」という危険なテーマを組み合わせているところです。昆虫観察や科学実験をするような感覚で始まるはずの自由研究が、いつの間にか生と死の境界へ近づいていきます。
そして物語の中心にあるのは、単純な心霊現象ではなく「喪失」です。大切な人が突然いなくなったとき、人はその死をどう受け入れるのか。もう一度会いたいという気持ちはどこまで許されるのか。先生を生き返らせようとする研究を通して、残された側の感情が描かれていきます。
川嶋珠子と高浜みなとの対照的な性格も物語を面白くしています。珠子は意志が強く、思い立ったら一直線に突き進むタイプ。一方のみなとはオカルトをまったく信じません。「死者を生き返らせる」という普通ならあり得ない研究に対しても、二人の受け止め方には違いがあります。
それでも幼馴染みである二人は、一緒に研究を続けていきます。珠子の行動力と、みなとの現実的な視点。そのバランスによって、物語は完全なオカルトにも、単なる科学的な謎解きにも寄らず、「本当に何かが起きるのではないか」という絶妙な場所を進んでいきます。
また、明るい夏の風景の中へ恐怖が入り込んでくるところも印象的です。学校、部活動、幼馴染み、夏休み、自由研究。一つひとつは青春漫画らしい要素なのに、そのすぐ隣に死や怪異が存在しています。日常とホラーの距離が非常に近いため、何でもない場面まで不穏に感じられるようになります。
物語が進むにつれて、亡くなった御供田先生自身にも秘密があったことが見えてきます。先生が生前に生き返らせようとしていた少女の存在など、「死者を蘇らせる」という研究が珠子たちだけの突飛な発想では終わらなくなっていきます。先生は何をしようとしていたのか。そして珠子たちが触れようとしているものは本当に死者なのか。ミステリーとしても謎が深まっていきます。
ホラーでありながら、その根底に「もう一度、大切な人に会いたい」という非常に人間的な願いがあるからこそ、恐怖だけでは終わりません。怖いのに先を知りたい。危険だと分かっているのに、珠子たちの研究を止めてほしいとは言い切れない。そんな複雑な感情を味わえる作品です。
ここからは、『まなざし珠子の自由研究』のように、青春と怪異が交差する物語、大切な人の死や喪失を扱ったホラー、日常の中から少しずつ異常な世界へ踏み込んでいく漫画を中心に5作品紹介します。
おすすめの作品を詳しく紹介
1.『光が死んだ夏』
モクモクれんによる、山間の集落で暮らす少年たちを描いた青春ホラー漫画です。よしきは幼馴染みの光に対して、ある決定的な違和感を抱いていました。目の前にいる光は、姿も声も記憶も以前と変わらない。しかし本物の光はすでに死んでいて、今そこにいるのは光ではない「ナニカ」だと気づいてしまいます。
よしきは真実を理解しても、その存在を簡単には拒絶できません。大切だった幼馴染みを失った悲しみと、偽物であってもそばにいてほしいという感情が混ざり合い、その関係は少しずつ危ういものになっていきます。
『まなざし珠子の自由研究』で、「亡くなった大切な人を取り戻したい」という感情や、喪失と怪異が結びついていくところに惹かれた人には特におすすめです。青春のまぶしさと死の気配が同じ風景の中に存在するところにも共通した魅力があります。

2.『サマータイムレンダ』
田中靖規による、離島を舞台にしたSFサスペンス・ホラー漫画です。故郷を離れていた網代慎平は、幼馴染み・小舟潮の葬儀に出席するため、二年ぶりに故郷の日都ヶ島へ帰ってきます。しかし潮の死には不可解な点があり、島では「影」にまつわる奇妙な噂が語られていました。
やがて慎平自身も命を落としますが、気がつくと島へ帰ってきた時間まで戻っています。死ぬことで時間をやり直す力を利用しながら、慎平は潮の死と島に隠された秘密を追っていきます。
『まなざし珠子の自由研究』で、夏という季節、幼馴染み、死者への想い、そして調べれば調べるほど大きくなる怪異の謎が好きだった人におすすめです。最初は身近な人物の死を調べていただけなのに、やがて土地そのものに隠された異常へ近づいていく構成も楽しめます。

3.『兄だったモノ』
マツダミノルによる、死者と残された人々の感情を描くホラー漫画です。主人公の女性は亡くなった兄の墓を訪れる中で、兄のかつての恋人と関わっていきます。しかし二人の周囲には、死んだ兄そのものではない、おぞましい「兄だったモノ」が存在しています。
怪異そのものの恐ろしさだけでなく、死者への愛情、執着、嫉妬といった生きている人間の感情が物語の中心にあります。「大切な人が死んだから終わり」ではなく、その死によって残された人間同士の関係がさらに複雑になっていきます。
『まなざし珠子の自由研究』で、死者を忘れられない人間の気持ちや、「もう一度会いたい」という願いが恐怖と結びつくところが好きだった人におすすめです。ホラーでありながら、人間の感情そのものを深く描く作品です。

4.『裏バイト:逃亡禁止』
田口翔太郎による、高額報酬の怪しいアルバイトへ挑む二人の女性を描いたホラー漫画です。黒嶺ユメと白浜和美は、それぞれの目的のために通常では考えられないほど報酬の高い「裏バイト」を繰り返します。
仕事の内容は一見すると単純でも、その場所には人間の常識では説明できない存在や現象が潜んでいます。何が起きているのか最後まで完全には説明されないことも多く、登場人物と読者が断片的な情報から怪異のルールを推測していく面白さがあります。
『まなざし珠子の自由研究』で、「調べてはいけないものを調べている」ような緊張感や、最初は理解できなかった現象の輪郭が少しずつ見えてくるところが好きだった人におすすめです。怪異を完全に説明しないからこその怖さをたっぷり味わえます。
5.『夏目アラタの結婚』
同じ乃木坂太郎による、連続殺人事件をめぐるサスペンス漫画です。児童相談所で働く夏目アラタは、担当していた子どもからの依頼をきっかけに、死刑囚・品川真珠と面会することになります。そこでアラタは真珠から情報を引き出すため、とっさに「結婚しようぜ!!」と口にしてしまいます。
面会室のアクリル板を挟みながら繰り広げられる二人の心理戦は、相手が何を考えているのか分からない緊張感に満ちています。真珠は本当に殺人犯なのか、遺体はどこにあるのか。会話を重ねるほど、新しい疑問が生まれていきます。
ジャンルは異なりますが、『まなざし珠子の自由研究』で乃木坂太郎ならではの人物の表情や、少しずつ真相へ近づいていくミステリーに惹かれた人にはおすすめです。人間の執着や死をめぐる感情を描く作品として読み比べても面白いでしょう。

まとめ
『まなざし珠子の自由研究』は、活発な陸上少女・川嶋珠子と、オカルトを一切信じない幼馴染み・高浜みなとが、夏休みの自由研究として「亡くなった先生を生き返らせる」ことに挑む、乃木坂太郎の青春ジュブナイルホラーです。
死んだ大切な人と怪異の関係なら『光が死んだ夏』、夏と幼馴染みと死の謎を追う物語なら『サマータイムレンダ』がおすすめです。喪失と執着をさらに深く描く『兄だったモノ』、理解できない怪異を調査していく怖さなら『裏バイト:逃亡禁止』、乃木坂太郎ならではのミステリーと心理描写をもっと読みたいなら『夏目アラタの結婚』も相性のいい作品です。
「死んだ人を生き返らせたい」という願いは、無謀でありながら、大切な人を失った者なら一度は想像してしまうことかもしれません。『まなざし珠子の自由研究』は、その願いを本当に「研究」してしまう高校生たちを通して、死と向き合うこと、そして喪失を受け入れることを描いていきます。夏の青春とじわじわ迫る怪異、その両方を楽しめる漫画を探している人なら、今回紹介した5作品もぜひ読んでみてください。

